卵というのはいろいろな料理に使われる。
とはいえ今では卵アレルギーの人でも食べられるように代用品を使ったレシピがたくさん開発されているみたいだが(いやはや、考える人は本当にすごい)、おでんの卵はたぶん代用できない。
代用できたとしてもそれはおでんの卵ではなく、新しい具である。
さて今日の話は、そんなおでんの卵が主役だ。
卵をレンジで温めると、どうなるかご存じだろうか。
まぁ元気に暴発なさるのである。
レンジの中にこびりついた、かつて卵だったものをふき取る行為はなんとも切ない。
その切なさを想像しながら読んでほしい。
高校三年生のある休み明けの日。
イキリキャシーは、生活リズムが崩れすぎてオールをして学校に行くことにした。
さてここで、状況をわかりやすくするためにわたしの寝坊癖について触れておこう。
褒められた話ではないが、わたしは寝坊魔・遅刻魔であり高校に間に合った日は年間10日くらいというレベルである。
そもそも起きたのが昼過ぎで高校を休むことも多かった。
むしろ登校したら、「あっ来た!!」と友人にびっくりした顔をされる始末である。
高校に比べ、大学というのは自分で時間割を組めるから楽だ。
寝坊しがちであるという話をすると、
「わたしもすごい寝坊する人なの~わかる~」
と相槌を打たれることがあるが、「すごい寝坊」どころか毎朝学校に走って間に合っているとかいうのがほとんどだ。
それは話が違うではないか。
起きたら10時だとか、午後から登校だとか、そういうことではないのか。
その程度でわかっていただけるのならば、もう少し世の中の寝坊に対する風当たりというのはましだろう。
こうは言うものの、わたしも決して開き直っているわけではない。
寝坊のたびにきちんと反省をしている。
それでも好きで寝坊しているわけではないことだけは伝えたい。
さて、話が大いにそれてしまった。
おでんの卵が主役だったはずなのに、主役の座を寝坊論が奪ってしまった。
わたしの寝坊論はまたあとでしっかり記事にしておくことにする。
とにかく徹夜明けの朝7時、わたしはぐぅと自己主張をする胃を抱えながら冷蔵庫の中を物色していた。
気づけば後ろで父が順番待ちをしていたので(きっとマーガリンを取りたかったのだろう)空腹である旨を伝えたところ、
「その皿に昨日俺が食べたおでんの残りがあるから温めて食べたらどうだ」
といったようなことを言われたため、わたしは父のおさがりだろうとなんだろうと食べ物ならなんでもいいやとラップを外し、そのままレンジに入れ、それっぽい時間で温めを開始した。
その時の私は、卵が爆発する性質があることをすっかり忘れていた。
なんだかゆで卵を温める時は穴をあけるといいだとかいろいろ聞くが、そんなことはすべて抜け落ちていた。
わたしの頭の中は、ひたすらに「おでん」だったのだ。
しばらくすると、レンジが控えめに「チンッ…!」といった。
温め終わったようだ、さぁおでんの時間だ。
わたしはレンジのドアをあけ、大根の中心まで温まっていることを確認するために皿をキッチンに置き、竹串を見つけ出したところで。
なんだかおでんから音がする。
そんなことがあってたまるか、音を発するおでんなど聞いたことがない。
わたしは近くで見ようと顔を近づけた。
これはきっと、卵から音が出ている。
手に持った竹串で少し触ってみよう。
そして竹串がそっと卵の表面に触れるや否や。
「パァン!!!!!!!!!!!!!」
と大きな音を発しながら卵がはじけ飛んだのだ。
その様子は、非常に元気のいいくす玉である。
なんだ、自分は卵ではなくくす玉を温めてしまったのか。
そうならそう言ってくれ、心の準備がいる。
などと心の中でぼけたところでツッコミもいなければ、各地に散らばった卵の残骸もどうにもならない。
いっそレンジの中で爆発してくれたら、あの箱の中にしか被害は及ばないので掃除も相対的には楽だろう。
しかし外で爆発してしまったものだから、キッチン中に元・卵が散らばっている。
もちろん顔を近づけていたので、顔や髪にも被害を被った。
だんだんみじめになってきた私は、すべてへの気力が失せた。
もう学校行かない。ふて寝してやる。
掃除を終え、結局芯まで温まってなかった大根を頬張り、わたしは父に告げた。
「卵爆発したから今日学校休むわ」
それを聞いた父は「へぇ」とうなずいた。
卵が爆発したこと。
学校を休むこと。
その2つの因果関係。
朝7時から寝始めること。
いつもならありえない朝7時に起きていることにすら。
どの要素にも触れずにただ、「へぇ」とだけ言った。
イキリキャシー一家はお互いにあまり干渉しない家庭なのだ。
その「自己責任だから勝手にしろ」の教育方針のもとで育ったイキリキャシーは、自立心のありすぎる人間となってしまった。
「自分は自分のやりたいようにやる」
それは時に反抗的ともいわれるが、まぁそういう大人は無視しておけばいいのだ。
なんだか自己啓発本のような終わり方になってしまったが、わたしは自己啓発本は苦手だ。
卵と全く関係のない締めである。