期末試験を目前にして、わたしはスライドとにらめっこしていた。
これはいったい何の話をしているんだ。
授業を聞いていなかった自分が悪い。
きちんと聞いてメモを取っていればよかった話だ。
ただ、大学の授業すべてが魅力的なわけではない。
卒業するためにとらなければいけない授業もあり、言語学の授業もその一つだった。
中間もひどかったし、せめて落単は避けたい。
そう思い、7個分のパワーポイントを開いてスクロールする。
Important! と書いてあるスライドも見覚えはない。
一応出席はしていたはずなんだけどな。
「この文章の続きになりえないのはどっち?どうしてかな?」
いや、知らない。
知っていたら試験当日にこんなところでつまずいていない。
次のスライドには、でかでかとAnimacy! と書いてあった。
盛大な種明かしをしてくれたところ申し訳ないが、わたしにはanimacyの意味が分からない。
Animeなら知っているが、残念ながらこれは言語学の授業。
おそらくわたしの知っているあのanimeではないだろうし、animeのつもりで試験に挑むわけにはいかない。
そのあとのスライドにもちょくちょく出てくるので、調べておいたほうがいいだろう。
「animacy 意味」
わたしはそう検索ボックスに入力した。
難しそうな解説じゃなくて、なんとなく意味をつかみたい。
そう思いつつ最初に出てきたWeblio辞書さんたちをスルーしていると、4番目に非常に気になるサイトが出てきた。
開いて出てきた文章は、
「animacyに関する情報は比較的少ないので、バイリンガルの話を見て気分をリラックスさせることができるかもしれません。幸せな一日をお過ごしください。」
だった。
スクロールしても、「今日のバイリンガルリーディング」という謎のコーナーと、広告と、サイトマップしかない。
日本語という言葉は理解できても、文章が理解できない。
「animacyに関する情報は比較的少ない」まではわかる。
その部分を読んだわたしは、てっきりその少ない情報を教えてくれるものだと思っていた。
しかし、
「バイリンガルの話を見て気分をリラックスさせることができるかもしれません」
とはどういうことか。
animacyに関する情報は比較的少ない→だからバイリンガルの話を見て気分をリラックスさせることができる
この因果関係はどこから来たのか。
百歩譲って、
「animacyに関する情報がないから、お詫びにバイリンガルの話を見て気分をリラックスさせてください」
と解釈したとする。
それでも、
「そもそもバイリンガルの話を見てリラックスできるのか」
という問題が残る。
おそらくここでの「バイリンガルの話」は、下にある「今日のバイリンガルリーディング」のことだろう。
「今日のバイリンガルリーディング」もまた不思議なコーナーで、ペットショップに行った女性が犬にかみつかれた話が書かれていた。
途中で終わっており、「もっと」を押しても出てくるのはError 500の文字。
わたし側の不備ではなく、サイト側のエラーだ。
「今日のバイリンガルリーディング」を読んでリラックスしろとのことだが、これではどうしようもない。
丁寧に「幸せな一日をお過ごしください」と言ってくれているのはありがたいが、これでは幸せになんて到底なれない。
幸せな一日を祈るくらいなら、animacyの意味を教えてほしい。
animacyなくしてわたしは幸せになれないのだ。
animacyがあったからといって幸せになれるわけではないが。
Wikipediaでなんとなく意味を把握したわたしは、再びスライドを開きなおした。