幼い頃、干支の中で一番嫌いだったのはヘビだった。
ちなみに好きだったのはウサギ。
保育園の頃に語った将来の夢は「ウサギさん」だったという。
しかしどうにもヘビは嫌いだった。
今となっては愉快な話だが、当時のわたしにとってはトラウマものであるような思い出がいくつかあるのだ。
まず一つ目。
幼い頃、周りの大人からさまざまな言い伝えを聞いた人も多いだろう。
冷静になって考えればなんだそれは、となるような話ばかりだが純朴な子どもはいともたやすく信じてしまう。
そのうちの一つに、
「夜に口笛を吹くと、ヘビが来る」
というものがあった。
ヘビはそんなに聴覚に優れた生き物ではなかったはずだ、と幼少期からイキってた(年の割に物知りだったのだ)わたしは反論した。
しかしながら、母が
「見えないだけでいつでも近くで耳をすませてるんだよ」
と適当にあしらうために言ったであろう言葉をわたしはなぜか固く信じていた。
わたしの実家はそこそこな田舎にあり、そこそこな信ぴょう性を誇っていたのだ。
また母が巳年生まれであったため、口笛を吹いた瞬間母がヘビに変幻し襲いかかってくるかもしれないとまで思っていた。
好奇心に苛まれ、ひとり脱衣所でひゅっと吹いては辺りを見回す、といった挙動不審な行為もしていた。
二つ目は、ヘビの死骸事件である。
あれは小学校低学年の夏の夕方、近所にあるそろばん塾から自転車で帰宅しようとしていた時だった。
途中にある坂道を、自転車を押して登っていた。
先ほども述べた通り、わたしの実家はそこそこな田舎にある。
その坂道も、雑木林や畑に囲まれたような位置にあった。
坂のピークを超えてすぐ、わたしの目に入ったのはヘビの死骸。
おそらく、車にひかれたであろうもの。
口笛をどこにいても聞きつけるらしいほどの能力を持つ生き物の死骸、しかもひかれたあとのものなんて、恐ろしいったらありゃしない。
怨念に取り憑かれたらたまったもんではない。
わたしは用心しながら近づいていったが、数歩進んだところで気づいた。
『なんだ、潰れた缶じゃないか』
用心してた自分がアホらしくなって、足取りも軽く自転車をぐんぐん押しながら進んでいった。
そして、潰れた缶の真横についてまた気づいた。
『やっぱりヘビだーーーー!』
わたしは重い自転車を引きずりながら、一目散に逃げ出した。
あの時の、一度気を許してしまったが故に増強された恐怖は忘れがたい。
しかしながらこう思い返すと、幼少期の自分はなかなか不思議な感性を持っていたようである。
エピソードは尽きない。
またいくつかまとめて投稿しようと思う。